中国のお酒と言ったら、日本人の方は真っ先に「紹興酒」を思い浮ぶでしょう。しかし、中国人に聞いてみると、恐らくほとんどの人は「白酒」と答えます。日本と違って中国で紹興酒を知らない人はもはや多数派で、実際にえんくんも日本に留学しに来るまで紹興酒を飲んだことがないです。
このような中国酒に対する認識のギャップがあったことで、本文は中国のお酒の全体像を紹介します。本文さえ読めば今後あなたも中国酒の通になります!
本文は中国のお酒を「白酒」、「黄酒」、「啤酒」、「紅酒」、「果酒」、「薬酒」の6種類に分けて、それぞれのタイプをについて詳しく説明します。
1. 白酒(バイジュウ / CN:Báijiǔ)
白酒は、文字通りに「白いお酒」の意味ですが、実際にミルクのような白色ではなく、無色透明なお酒です。
白酒は中国を代表する蒸留酒で、中国国内では圧倒的な知名度と市場シェアを占めている。アルコール度数が非常に高いことが特徴です。日本の本格焼酎や泡盛に似ています。
原料
- 穀物: 高粱(コーリャン)が最も一般的ですが、米、トウモロコシ、小麦、米なども使われます。地域によって使用する穀物が異なります。
製法
- 糖化と発酵: 麹(中国では「曲」)を使って糖化し、複数の穀物を発酵させます。独特の「固態発酵」という方法で、発酵は密閉されず空気に触れる環境で行われます。
- 蒸留: 発酵したもろみを伝統的な蒸留器で蒸留し、アルコールを抽出します。
- 熟成: 蒸留後、土の中にある甕(かめ)や木桶で数カ月から数年にわたり熟成されることが多いです。
主なタイプ
味わいや香りによってさまざまな分類があり、主に下記の4種類です。
- 醬香型(しょうこうがた): 発酵させた大豆に似た複雑な風味を持つ強い香りが特徴。代表的な銘柄は「茅台酒(マオタイ)」。
- 濃香型(のうこうがた): 甘い香りと豊かな風味を持つタイプ。四川省の「五粮液(ウーリャンイエ)」が有名。
- 清香型(せいこうがた): 軽やかでスムーズな味わいを持ち、山西省の「汾酒(フェンジウ)」が代表例。
- 米香型(べいこうがた): 米から作られ、ほのかな甘みと軽い香りが特徴。広西省の「桂林三花酒」が有名。
白酒の生産は中国全土に広がっていますが、それぞれの地域で独自の風土や伝統に基づいた製法があり、異なる特徴的な白酒を生産しています。現代の白酒は中国で社交や宴席で重要な役割を果たしており、強い風味と高いアルコール度数から、特に食事と共に楽しまれることが多いです。
2. 黄酒(ホワンジュウ /CN: Huángjiǔ)
黄酒は、文字通りに「黄色いお酒」の意味です。実際には黄色より琥珀色(アンバー)の方がほとんどです。
黄酒は中国の伝統的な醸造酒の一つとして、長い歴史を持っています。アルコール度数が低め(10〜20%)で、飲む以外に料理酒としても広く親しまれています。浙江省をはじめ、中国東南沿海の地域で広く造られています。地域ごとに異なる種類が存在しますが、その中で最も有名なものは「紹興酒」です。浙江省の紹興市は古くから黄酒の銘醸地として名を馳せたため、紹興市地域で造った黄酒は「紹興黄酒」と呼ばれ、段々省略されて「紹興酒」と呼ばれるようになりました。現在「紹興酒」はフランスの「シャンパーニュ」と同じく、紹興市で造られた黄酒のみ「紹興酒」と名乗ることが可能です。
原料
- 米類: 原料は主にもち米ですが、地域によってはうるち米やそれ以外の穀物も使われます。
- 麹: 発酵には「麹(こうじ)」が使われ、特に「麦麴」が使用されます。
製法
- 発酵: 穀物に麹を加えて糖化発酵を行います。一般的に固形物が残る形で発酵させるため、濁りがある酒となります。
- 熟成: 発酵後、長期間(数カ月から数年)に貯蔵され、時間が経つほど味わいが深まり、色も濃くなります。長期熟成された黄酒は、深い琥珀色に変わり、香りと味に複雑な風味が加わります。
- 濾過: 熟成後に濾過し、最終的な製品として瓶詰めされます。
主なタイプ
- 乾型: ドライな味わいで、アルコール度数が高め。
- 半乾型:中辛口で、 最も多く造られ、バランスの取れた風味。
- 半甜型: 中甘口で、甘みと酸味がバランスよく、食事とも合わせやすい。
- 甜型: 甘口で、デザート酒としても楽しまれます。女性に人気が高い。
ちなみに、発酵したての黄酒はどぶろくのような白い濁った液体です。あの特徴的な琥珀色は熟成とともに、お酒の中に含まれた糖分とアミノ酸がメラーノ反応によって形成されたものです。アミノ酸をより多く残すため、黄酒用お米の精米歩合はほとんど90%と非常に高いです。
3. 啤酒(ピージュウ /CN: Píjiǔ)
啤酒(ピージュウ)は中国語で「ビール」の意味です。中国ではビールも非常に人気のある飲み物で、現在中国は世界最大のビール市場の一つとなっています。軽めのラガービールが一般的ですが、近年はクラフトビールも注目されています。
ビールは非常に身近な飲み物ですので、原料や製法を省略し、日本のビールとの違いを中心に紹介します。
中国ビールと日本ビールの違い
- 味わい:
- 中国のビールは、軽くて飲みやすい味わいと低アルコール度数(3〜4%)が特徴で、ビール自体の味が軽く、爽やかで飲みやすい傾向があります。
- 日本のビールは、しっかりとした麦芽の風味やホップの苦味が強調された味が特徴です。アルコール度数は平均的に5%前後です。
- ビールの温度と泡:
- 日本では皆様のイメージ通り、キンキンに冷やしたジョッキに注いだ、上部にきめ細かい白い泡が乗っているビールが基本です。
- 中国では、冷たい飲み物が好まないことで、普通に注文すると常温のビールが持って来るのはほとんどです。もちろん店員さんに聞けば冷やしたビールと交換してくれます。また、中国北の方は未だに一気飲みの文化が残っており、ビールの泡がごまかしだと思われて、泡を残さずグラスにいっぱい注ぐのは普通です。
中国の地ビールとクラフトビール
ビールの味は鮮度によって大きく左右されます。近年まで中国に大規模のチルド物流がないため、青島ビールをはじめ、燕京ビールや珠江ビールなど各地の地ビールブランドがあります。しかし近年多くのブランドはカールスバーグやインベブなど欧米の大手ビールメーカーに買収され、味が均一化に進んでいます。また、欧米の大手ビールメーカーも中国で工場を開設し、現在アジア市場のコロナビールやグースアイランドはほとんど中国産です。
今まで中国のビール市場は伝統的に大手ビールメーカーによる大量生産品が中心でしたが、ここ10年ほどで大都市を中心にクラフトビール(CN.精酿啤酒)が急速に発展しています。IPA、スタウト、エール、ピルスナーなどさまざまなスタイルが生産され、またジャスミンや龍眼、菊花、茶葉など地方の特産品をビール醸造に取り込む個性的な醸造所も登場しています。
最後にプラスワン
中国に蒸留技術が伝わって来たのは元の時代、そして白酒の基盤を確立されたのは明の時代と思われています。現代まで中国では紹興酒のような米や穀物の醸造酒が圧倒的な存在でした。1949年に現在の中国が建国したあと、食糧原料の不足とアルコール飲料の高需要という対立な状況が続いていました。そんな状況の中で、お米を原料とする黄酒などの醸造酒が軽視され、様々な穀物を原料とする白酒が推奨されました。
さらに小麦のふすまを原料とした麴製法が開発され、それまでに麴のために使う穀物は節約になりました。また、小麦のふすまの強い糖化力で芋やトウモロコシなども白酒の原料として利用可能になりました。このように安価で大量に生産できる白酒はあっという間に全国に広がり、中国の飲酒文化を大きく覆しました。
コメント