近年最も注目される中国ワイン産地の一つ、まさにワイン界のダークホース
プロフィール
寧夏・賀蘭山(Helan Mountain)産地は中国の西北地区に位置するワイン産地です。まず賀蘭山は寧夏回族自治区と内モンゴル自治区の境界に位置する山脈で、全長はおよそ200kmで、南北に走っています。最も高い主峰は標高3556mです。ブドウ栽培とワイン生産は主に賀蘭山東側の山麓地域に分布しています。元々この地域は農産物の栽培に向いていないため、長年牧畜業がメインでした。長い日照時間と大きい温度差がブドウ栽培に適することが気付き、本格的なワイン生産は1990年代ごろから始めました。2010年代に入ってからボルドー品種を主体に造った赤ワインが国際ワインコンクールに多数受賞し、一気に脚光を浴びるワイン産地になりました。
気候風土
賀蘭山(Helan Mountain)産地は大陸性気候で、年間降水量は200mm未満と非常に乾燥しています。特にブドウが成熟する8~9月に間、雨がほとんど降らず、天候不順によって成熟前にブドウを収穫するリスクが少ないです。その反面、灌漑が必須になり、水源は確保や灌漑システムの構築が欠かせません。幸いなことに賀蘭山からの雪解け水が豊富に供給され、灌漑に利用できます。また、寧夏の政府にも黄河から分水するプロジェクトを施工し、水源確保のサポートを行っています。
賀蘭山(Helan Mountain)産地のもう一つの特徴は日照時間が長く、平均年間の日照時間は3000hを超えます。ブドウ畑のほとんどは標高は1000mから1200mの高さに位置しています。世界中同じぐらい標高のワイン産地は他にアルゼンチンのメンドーサやスペインのリベラ・デル・ドゥエロなどがあります。また、高地に位置することで、昼夜の気温差が大きく、一日中の温度差は15℃ほどあります。長い日照時間と大きい温度差によってブドウのフェノールと色素が貯まりやすく、また、糖度と酸度のバランスも取れやすいです。
賀蘭山(Helan Mountain)産地の緯度は北緯37°~39°で、日本の山梨県やアメリカのカリフォルニア州、イタリア中部のマルケ州と同じような緯度です。それにもかかわらず、冬の最低気温はー20℃以下まで下がり、厳しい寒さを乗り越えるためにブドウ樹を土で覆う必要があります。土壌は砂利や砂、粘土が混ざったものが多く、排水性が良く、ブドウの根が深く伸びやすい環境が整っています。
サブリージョン
賀蘭山(Helan Mountain)産地は、位置と特徴によっていくつかのサブリージョン(小地域)に分けられます。これらのサブリージョンは公式の分け方ではなく、現在にある情報によってえん君が整理した分け方に過ぎないです。
- 銀川市
- 位置: 寧夏回族自治区の首都であり、賀蘭山の東側に広がる地域。
- 特徴: 灌漑が豊富で、ブドウ栽培に適した条件が整っています。都市に近いため、観光施設やワイナリーも多いです。
- 主な品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ。
- 青銅峡市
- 位置: 賀蘭山の南東部に位置し、黄河沿いに広がる地域。
- 特徴: 黄河からの灌漑用水が豊富で、土壌は砂質で排水性が良好です。
- 主な品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ヴィオニエ。
- 石嘴山市
- 位置: 賀蘭山の北部に位置し、内モンゴル自治区との境界に近い地域。
- 特徴: 高地に位置し、昼夜の温度差が大きく、ブドウの成熟に好影響を与えます。
- 主な品種: メルロー、シラー、リースリング。
- 紅寺堡
- 位置: 賀蘭山の南部に位置し、青銅峡市の南部に広がる地域。
- 特徴: 乾燥した気候と砂利質の土壌がブドウ栽培に適しています。黄河からの灌漑システムが発達しています。紅寺堡で生産されるワインは、深い色合いと豊かなアロマ、バランスの取れた酸味とタンニンが特徴です。特に赤ワインが高く評価されています。
- 主な品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、シラーズなどの国際的に評価の高い品種が栽培されています。また、中国固有の品種も一部栽培されています。
- 永寧県
- 位置: 賀蘭山の東部、銀川市の南西に位置する地域。
- 特徴: 温暖な気候と良好な排水性を持つ土壌がブドウ栽培に適しています。多くのワイナリーがここに集中しています。
- 主な品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ。
- 賀蘭市
- 位置: 賀蘭山の東部、銀川市の北に位置する地域。
- 特徴: 賀蘭市には多くのワイナリーがあり、最新の技術を取り入れたワイン生産が行われています。ワイナリーは、ワインツーリズムを促進し、見学ツアーやテイスティングセッションを提供しています。
- 主な品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、シラーズなどの国際的に評価の高い品種が栽培されています。また、中国固有の品種も一部栽培されています。
歴史
賀蘭山におけるブドウ栽培の歴史が長く、唐の時代では既にブドウ畑が広がる様子を描写する詩が書かれていました。ワイン生産の歴史は11世紀から13世紀、この地域を支配していた西夏王朝の時代に遡ることができます。考古学の発見によると、当時では王室や貴族の間でワインは既に愛飲され、祭祀や宴会などの場面で重要な飲み物として使われていたようです。
現代において、賀蘭山のワイン産業が本格的に始めたのは1980年代です。1982年から寧夏でブドウ栽培を模索し始め、1984年に初のワイナリーを建設しました。ブドウの栽培面積とワイナリー数の増加を踏まえて、2001年に中国初のワイン協会組織「寧夏ワイン産業協会」が成立しました。そして、2003年に原産地保護地区として寧夏・賀蘭山(東側の山麓地域)がワインの「地理的表示」と認定されました。
2011年寧夏・賀蘭山の赤ワイン「加貝蘭2019VT」がイギリスの国際ワインコンテストDWWA(Decanter World Wine Awards)で最高賞のインターナショナル・トロフィーを受賞したことで賀蘭山は一気に注目を集めました。長城、張裕、ペルノリカール、MHDなど国内外の大手ワイン企業が相次いで賀蘭山でワイナリーを建設しました。現在寧夏に200以上のワイナリーがあります。2013年から寧夏のワイン協会がボルドーの格付け制度を参考し、寧夏のワイナリーを一級から五級に格付けを行いました。格付けは2年ごとに見直しで、業界のみならず賛否両論の声が上がっており、詳細は別の記事で紹介します。
主なブドウ品種
黒ブドウはカベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、蛇龍珠(カベルネ・グルナッシュ)、メルロー、シラー、ピノ・ノワール、ガメイなど多様な品種。
白ワインはシャルドネ、リースリング、イタリアン・リースリング、セミヨン、ピノ・ブランなど。
ただし、地理的表示を使用する場合には、赤ワインはカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、蛇龍珠、白ワインはシャルドネ、リースリング、イタリアン・リースリング、上記の6種類のブドウを使わなければいけません。地理的表示はブドウ品種だけでなく、栽培方法や醸造方法や最低アルコール度数など細かい規定がたくさんあります。詳細は別途に紹介します。
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