皆様はスーパーマーケットや酒屋、レストランで紹興酒を購入、または注文する際にボトルやメニューに以下のような記載を目に掛かったことはありますでしょうか？
「花彫」、「女児紅」、「元紅」、「善醸」、「陳〇年」、「陳年」、「古越」など
これらのような紹興酒にまつわる称呼のほとんどは中国語をそのまま日本語の漢字に書き換えたため、非常に分かりにくいです。しかもほとんどの称呼は法律による規制がなく、メーカーが好き勝手に使うことができるため、日本だけではなく中国でも困惑する消費者がたくさんいます。本文は紹興酒によく使う称呼を「伝統の名残り」、「製法と残糖による分類」、「熟成表記」という3つのカテゴリーに分けて紹介します。それぞれの由来と違いを徹底解説いたします。
花彫、女児紅、状元紅——伝統の名残り
花彫（CN：花雕）
「花彫」は恐らく紹興酒のラベルで最もよく見かける漢字表記です。中国においても最も知られている紹興酒の名称だと言えます。この名称の由来は諸説ありですが、最も主流な説は「花柄が彫り刻んだ紹興酒のつぼ」のことを指す言葉から由来されました。
Tip：紹興酒は一般的に広口のかめ（Ch:缸）で発酵し、その後は細口のつぼ（Ch:坛）に入れて数年間熟成させます。日本では「甕出し」という言い方が浸透していますが、実はつぼの方が適切です。
花彫紹興酒の起源は明の時代だと考えられます。紹興市の地域では昔から結婚式などのお祝いや地域の祭事などの集まりでお酒は欠かせません。その際に貯蔵庫から熟成具合のいいつぼを厳選して、専門の人に頼んでつぼの外側に花柄を描いたり、彫り刻んだりして装飾してもらいます。その作業を「彫花」といいます。
だんだん花柄が彫り込んだ紹興酒は厳選された品質の高いお酒といて認識が広まって、紹興酒の蔵元もその波に乗って自ら「花彫酒」と名乗るようになったそうです。
花彫という名称は熟成した、厳選した、ほかの紹興酒より格上などの意味が含まれています。しかしこの称呼については法律の規制がないため、メーカーの意志で自由に使えるので、必ず高品質という保証はないです。
女児紅（CN：女儿红）
「女児紅」もよく知られている紹興酒の名称です。文字通り「女の子」と深く関わっています。
この名称に関する歴史は宋の時代まで遡ります。紹興市の地域では娘が生まれたら、その年の新酒を厳選し、セラーで貯蔵しておきます。将来娘が結婚する際に嫁入り道具として、貯蔵していたお酒を取り出して、結婚式の宴で振る舞うという風習から由来したそうです。「女児紅」は親から祝福の気持ちと夫婦円満に対する期待を込めたお酒ですので、古来から様々な文学、歌詞、ドラマなどでよく愛情、婚姻の象徴として使われます。
現在「女児紅」は紹興酒の大手メーカー「古越龍山」グループ傘下の酒蔵の一つとして商標登録されており、一般的なボトルからつぼまで色んな商品のラインアップがあります。
状元紅（CN：状元红）
女の子のための「女児紅」に対して、「状元紅」は男の子のための紹興酒です。
「状元」とは、中国の古代科挙試験において最も優秀な成績を収めた人のことを指します。「紅」は赤色を意味し、中国では赤はおめでたい色とされています。古くから、科挙で最高位を取った「状元」の合格を祝うために特別に仕込まれた紹興酒が「状元紅」の由来だと思われます。現代では、科挙制度は存在しませんが、「状元紅」は結婚式や子供の誕生、商業的な成功など、特別な祝い事の際に使われることが多く、贈答用としても人気があります。
「女児紅」と同じく、「状元紅」も紹興酒の大手メーカー「古越龍山」グループ傘下の酒蔵の一つとして商標登録されており、色んな商品のラインアップがあります。
元紅、加飯、善醸、香雪——製法と残糖による分類
以下に紹介する四種類の名称は2008年に訂正された最新の国家基準によって、紹興酒の残糖の量と製法に基づく分類方法です。
1. 元紅酒（CN：元红酒）
上記の「状元紅」と一文字の差ですが、意味は全く違います。元紅酒は、紹興酒の中で最もドライな種類です。「元紅」とは、昔の酒瓶が赤い封印で封じられていたことから名付けられました。この種類の紹興酒は、主に1年から3年程度の短期間熟成され、比較的フレッシュで軽い味わいが特徴です。
- 残糖：15g/L以下
- 味わい：やや辛い、フルーティーで軽やかな風味。
- 使用用途：食前酒や料理用。
2. 加飯酒（CN：加饭酒）
普段飲まれている紹興酒のほとんどは加飯酒です。加飯というのはアルコール発酵の途中にお米と麴を追加で投入することです。元紅酒に比べてもち米の使用量が多く、3〜5年の熟成を経て作られます。より濃厚でしっかりした風味が特徴で、元紅酒よりも甘みが強く、アルコール度数もやや高いことが多いです。
- 残糖：15g/L～40g/L
- 味わい：深みがあり、甘味と旨味がバランスよく調和。
- 使用用途：食中酒としてもよく合います。
ちなみに、ラベルに上記の「花彫」が記載されている紹興酒は原則上全部加飯酒のカテゴリーに属しています。
3. 善醸酒（CN：善酿酒）
善醸酒、或いは善醸仕込みは日本酒の貴醸酒とよく似ています。仕込み水の代わりに、元紅タイプの紹興酒を使用して造った物です。もろみの中の糖分とエキスが一部残るため、濃厚な味わいと豊かな香りが特徴です。糖度が高く、甘口の紹興酒として知られています。
- 残糖：40g/L～100g/L
- 味わい：甘くて濃厚で、デザートワインのような風味。
- 使用用途：食後酒やデザートと合わせて楽しむ。
4. 香雪酒（CN：香雪酒）
紹興酒の中で最も甘いタイプです。酒精強化ワインと同じような製法で、仕込み水の代わりに、紹興酒の絞り粕から造った「粕取り焼酎」を添加し、アルコール発酵を止めます。そのためもろみの中の糖分がたくさん残し、極甘口タイプの紹興酒になります。
- 残糖：100g/L以上
- 味わい：上品な香りで、リキュールのような甘み。
- 使用用途：食後酒やチーズ、デザートと合わせて楽しむ。
「陳年」、「陳〇年」（CN：陈年）などの熟成表記
中国語の「陳」、「陳年」は「熟成する」という意味を持っており、紹興酒のラベルによく見かける「陳年」や「陳年五年」、「陳八年」などの表記は該当の紹興酒は熟成したものだと意味します。
しかし、現行の国家基準では紹興酒の年数表記は加重平均によって算出された数値を使用できます。つまりラベルに陳年十年（十年熟成）と記載されたとしても、中身のお酒は十年より若い物や十年以上に熟成した物がブレンドされているのはほとんどです。今まで法規制の不足と検査の難しさで、市場では玉石混交の状況です。同じ十年熟成と表記する紹興酒は数百円から数千円まで値段と品質の差が大きくのは現状です。
その他の表記
よくある「越」という漢字の意味
「古越龍山」、「越王台」、「大越貴酒」など紹興酒のラベルによく「越」という漢字が含まれています。それは中国戦国時代に紹興市地域にある「越国（えつこく）」と関係しています。
越国は、紀元前12世紀から紀元前4世紀にかけて存在した古代中国の国家で、現在の浙江省を中心に広がっていました。特に越国は、春秋戦国時代に著名で、越王勾践（こうせつ）が呉国に勝利したことで知られています。越国は地理的に豊かな自然環境に恵まれ、農業や水稲栽培が盛んでした。この地域で育まれた農業技術や文化が、紹興酒の発展に寄与しました。
越国の地域は、米を基盤とした酒造りの伝統が古くから存在しており、越国の文化や技術が紹興酒の製造に影響を与えました。越国の時代にはすでに米を発酵させて作る酒が存在し、当時の人々が祭りや儀式で酒を捧げる文化がありました。特に越王勾践が呉国に勝利した際に、祝杯として酒が振る舞われたという伝説があり、これが紹興酒の原型ともいわれています。
古代から現在に至るまで、紹興市は紹興酒の生産地として名を馳せ、特に越国の文化的背景や技術が紹興酒の製造過程や伝統に残っています。例えば、有名な紹興酒ブランド「古越龍山」の「古越」は「古の越国」という意味で、紹興酒がこの伝統ある地域で作られていることを示しています。
中国の「地理的表示」（GI）の認定マーク
まず、地理的表示（Geographical Indication 略称GI）は、特定の地域で生産された製品の特性や品質が、その地域の自然環境や伝統的な製造方法に強く結びついている場合に、製品名を保護するための制度です。食品、酒類、農産物などの産品でよく使われる制度で、国際的な取引や保護の枠組みにおいても重要視されています。日本酒にも、例えば山形県内で造られたなどの条件を満たせばが「GI.山形」と表示できます。
2000年に中国でGI制度が始めて施行する際に、紹興酒は第一号として認定されました。そして2020年から中国のGI認定のマークがこの写真のマークに変更しました。
紹興市の独特の気候や水質は紹興酒の発酵過程や熟成に影響を与え、その風味に大きく貢献しているため、この認証は紹興酒が紹興市で生産され、その地域の気候、土壌、そして伝統的な技術に基づいていることを証明します。
ちなみに現在紹興酒を生産している酒造メーカーのうち、GI制度の規定を満たしている、つまり紹興酒の地理的表示マークを使用できる酒蔵は14社しかないです。皆様今度紹興酒を購入する際にぜひ上記のマークがボトルあるいは箱にあるか確認してみてください。
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