今話題の「中国ワイン」――まずは全体像から

中国のお酒

中国ってワインを造れるんですか?!

――造れます!しかも近年、その品質の高さは国際の舞台でも注目されています!

国際ブドウ・ワイン機構のデータから見る中国ワイン

中国のブドウ栽培面積はなんと世界3位?!

国際ブドウ・ワイン機構(以下OIVに略称)の2022年データによると、中国のブドウ栽培面積は約75.7万haで、スペインとフランスに次ぐ世界第三位の規模です。ワイン大国のイタリアよりブドウ畑の面積が広いにもかかわらず、中国ワインについてはほとんど聞かない理由はなぜでしょうか?

それは、今まで中国で栽培しているブドウの中で、生食用のブドウ干しレーズン用のブドウがほとんどなのです。果物として食べるブドウの消費量は平均で一人年間8.7㎏、ダントツに世界一位です。ちなみにスーパーで売っているブドウは一房およそ500gで、各人年間17房以上を食べないといけないイメージです。日本では想像つかないぐらいブドウ大好きですね。

ワイン用のブドウの栽培面積は2010年前後からのワイナリー投資ブームに伴い、現在はおよそ8万haに拡大しています。これほどブドウを栽培しているということは、中国には美味しいワインを生み出す素地が十分あります!

昔からブドウを栽培して豊富な経験を持つ農家さん、ブドウの成長と成熟に適する気候条件、海沿いの丘陵から内陸の砂漠まで多様なテロワール、世界一流ワイナリーや醸造学大学院で修業を積んだ若手醸造家たち、このようないい条件がたくさん揃うことで美味しい中国ワインが生み出されます。

中国は世界有数のワイン消費市場

2017年からワインの消費量は減少傾向ですが、中国は依然として世界最大のワイン消費国の一つです。2022年のOIVレポートによると、メインランドのみで年間は900万hlのワインを消費し、世界で9番目の消費量を記録しました。

また、中国は主要なワイン輸入国でもあります。近年では国産ワインの増加と経済の減速によって、輸入量は2017年の世界4位から2022年の世界9位に落下しました。

中国のワイン生産量

2022年のOIVデータによると、中国のワイン生産量は世界において第12位にランクしています。13位のニュージーランドと同じレベルです。しかし、ワインの輸出量から見ると、ニュージーランドの世界11位に比べて、中国は世界57位で大幅に負けています。確かにワインショップに行けば基本ニュージーランドのワインがありますが、中国ワインを置いているお店は滅多にないですね。

また、中国のワイナリーは大量生産より少量で丁寧に造るところが圧倒的に多く、栽培や醸造の過程でコストがたくさんかかって、輸出に向けて価格的な優位性が弱いです。

例えば、中国のワイン産地の大半は内陸部に位置しており、冬の気温はマイナス15℃以下まで下がります。極寒の中でブドウ樹が凍死されないように、毎年収穫後に枝や根元の部分を土に埋めて保温させ、翌年の春に掘り出すという大変な作業を行わなければなりません。また、中国のワイナリーでは手摘み収穫と房ごと、粒ごとの選果を人工で行うところはほとんどです。これらによってワイン製造のコストはチリなど機械生産が導入しているワイナリーよりだいぶ高くなります。

春の時期ブドウの枝を土から掘り出す様子(美賀ワイナリー)

次は中国ワインの各産地について簡単に見てみましょう。

中国主なワイン産地

中国のワイン産業は2010年前後から急速に発展し、多様な生産地域、気候、栽培品種が存在します。

以下は李徳美教授がデキャンター誌(Decanter)に投稿した文章のもとに中国の主なワイン生産地域、気候風土、栽培されている主要なブドウ品種について詳しく説明します。

李教授によって、中国のワイン産地を大きいカテゴリーからエリア(地理的に広域な区分)、リージョン(都道府県による行政的な区分)、サブリージョン(特徴がある醸造用ブドウの栽培地区)三つのレベルに分けました。以下は各エリア代表的な地域を紹介します。

Decanter雑誌から引用

西部エリア

新疆ウイグル自治区 (XinJiang)・リージョン

新疆ウイグル自治区(新疆に略称)は、中国で最も面積が広い県で、約全国の6分の1を占めています。また、中国で最もブドウの栽培面積が広い県です。近年の考古学発見により、ワイン醸造用の欧州品種(Vitis vinifera)は中央アジアを通って新疆に伝わってきたことが証明されました。その歴史は2300年前まで遡ることができます。

中国で最も日照時間が長く、乾燥した大陸性気候のため、ブドウ栽培に最適です。生食用のブドウのみならず、伝統的な乾燥室「晾房」で干したグリーンレーズンも非常に有名です。

伝統的な乾燥室「晾房」でブドウを干す様子

新疆はこの十数年間で国際品種を含むワイン用ブドウの栽培面積が増加しつつあり、現在は四つのサブリージョンに発展しました。

  1. トルファン盆地(TuLuFan)・サブリージョン
    • ワイナリーは主にトルファン盆地に集中しています。内陸かつ盆地の地形によって、中国の夏で一番気温が高い場所です。埼玉の熊谷と似たような感じです。また、トルファンは極めて乾燥で、年間降水量は20㎜程度しかありません。
  2. 焉耆盆地(YanQi)・サブリージョン
    • 天山の南、タリム盆地の東北に位置します。ブドウ畑は大体1100mの場所に広がっています。年間降水量は80㎜しかありませんが、すぐ東側にボステン湖があるため、灌漑用水の確保と暑さを和らげる「レイクエフェクト」によって、ワイン用ブドウの栽培に適する環境になっています。
  3. 天山北麓(TianShan)・サブリージョン
    • 天山北麓はおよそ北緯44°で、中国で最も北寄りのワイン産地です。ワイナリーはほとんど天山の雪解け水によって形成された河のバレーに位置しています。新疆で最も経済が発展しているエリアです。
  4. イリ川バレー(ILi)・サブリージョン
    • 新疆で最も降水量が多い地域で、年間400㎜以上あります。新疆で最もワイン用ブドウの品種が多く栽培されている地域です。

甘粛省 (GanSu)・リージョン

甘粛省はかつではワインを造る歴史がありましたが、交通の不便さなどの原因により産業として成り立っていませんでした。産地全体としてまだ知名度が低いですが、ピノ・ノワールのみを栽培しているドメーヌ曦谷(Domaine Xigu)のワインは非常に品質が高く、私はとても気に入りました。

ワイン以外に、甘粛省は万里の長城の終点「嘉峪関」や「敦煌石窟」などの世界遺産があります。

寧夏 (NingXia)・リージョン

寧夏回族自治区、特に賀蘭山東麓(Helan Mountain East Foothills)地域は中国のワイン産業において最も注目されている地域の一つです。黄河の流域に位置するため、年間降水量は200㎜程の乾燥した気候だが灌漑用水は十分確保できます。また、ブドウ畑は標高1000m~1200mの場所に位置し、昼夜の温度差が大きく、ブドウの成熟に理想的な環境が整っています。中国のワイナリーが最も多い産地です。サブリージョンについての別の記事で詳細に紹介いたします。

銀川市内から見る賀蘭山、ワイナリーは山の麓に位置します。

山西省 (ShanXi)・リージョン

山西省のワイン産地は、主に黄土高原に位置しています。ワイン産業の規模は小さいですが、黄土(レス)という独特な土壌と「怡园酒庄(Grace vineyard)」の成功によって注目されるようになりました。

内モンゴル自治区 (NeiMongGu)・リージョン

おまけで私のふるさと、内モンゴルを紹介したいと思います。((笑))

山西省よりも規模が小さいですが、黄河沿いの烏海市やフフホト市にワイナリーがあります。特にフフホトに位置する「楽為ワイナリー」は寧夏と違い、冷涼スタイルのマルスラン品種のワインを造っています。私は今後非常に期待できる産地だと思っています。

楽為のワイン、ラベルは伝統的なモンゴル語文字で組み合わせた「龍」の文字

東部エリア

山東省 (ShanDong)・リージョン

山東省は中国最大のワイン生産地で、青島市や煙台市が中心となっています。フランスのボルドーと似たような温暖な海洋性気候がブドウ栽培に適しています。年間降水量は600㎜でボルドーより少ないですが、雨は夏に集中するため、病害対策やヴィンテージごとの差などの課題があります。

最も有名な産地は煙台市の蓬莱区です。1892年創業の中国初のワインワイナリー「張裕(ChangYu)」やラフィット・ロートシルトが手掛けたワイナリー「ドメーヌ・ド・瓏岱(LongDai)」などの有名ワイナリーがあります。また、特に白ワインが評価されている「龍亭(LongTing)」ワイナリーなど新参者もあります。

ドメーヌ・ド・瓏岱(LongDai)

河北省 (HeBei)・リージョン

最も有名なのは懐来(HuaiLai)産地、北京近いため、マーケティングやワインツーリズムが発展しやすいです。山地と川の谷、湖など多様なテロワールがあります。燕山山脈が南からの湿気を遮断し、冷涼な気候と乾燥した環境がブドウの栽培に適しています。古来から竜眼ブドウを栽培しており、中国で最初にマルスランを栽培した産地です。

懐来の「Domaine Franco Chinois」で2001年から栽培しているマルスラン

遼寧省(LiaoNing)・リージョン

東北地方にある遼寧省、特に桓仁(HengRen)は寒い冬と豊富な雪でアイスワインを造る環境があります。ヴィダル品種のブドウがたくさん栽培されており、アイスワインをメインに生産しています。

ブドウの収穫を1月まで待つことで糖分が凝縮して極甘口のアイスワインを造れます。

南部エリア

デチェン・チベット族自治州(DeQin)・リージョン

四川省、雲南省、チベットの三県が接する地域で、もっと有名な名前は「シャングリラ」です。北緯28°前後で、鹿児島の奄美大島と同じぐらいの緯度です。一見暑そうなイメージですが、標高が基本2000m以上の高山地域でブドウを栽培しています。

富士山9合目相当の世界で最も標高が高いヴィンヤード

低い緯度と高い標高によって、適量な降水と豊富な日差し、理想的な気温と温暖差など、ブドウ栽培に適切な条件がたくさん揃えています。この幻なテロワールにあのLVMHも駆けつけてきました。この産地は現在トップクラスの高額中国ワインを造っています。

主なブドウ品種

赤ワイン用ブドウ

  • カベルネ・ソーヴィニヨン (Cabernet Sauvignon): 中国全土で広く栽培されている代表的な赤ワイン用の品種です。特に寧夏や山東省での栽培が盛んで、濃厚でタンニンが豊富なワインが作られます。
  • メルロー (Merlot): カベルネ・ソーヴィニヨンと並んで広く栽培されている赤ワイン用品種です。より柔らかい味わいが特徴で、山東省や河北省でよく見られます。
  • 蛇竜珠 (Cabernet Gernischt): ドイツから持ち込まれた品種で、現在は中国特有の赤ワイン用ブドウとして知られています。スパイシーな風味と独特の香りが特徴で、最新のDNA分析ではカルメネールとかなり近い品種だそうです。

白ワイン用ブドウ

  • シャルドネ (Chardonnay): 中国全土で栽培されており、辛口から甘口まで多様なワインを造っています。
  • イタリアン・リースリング (Italian Riesling): 寧夏や山東省で栽培されることが多い品種で、酸味と甘みのバランスが取れた高品質な白ワインが生産されています。
  • ヴィダル (Vidal): 東北地方と西南地方で栽培しています。主に甘口のアイスワインやレイトハーベストのワインを造っています。ワイナリーによって辛口の白ワインも生産しています。

まとめ

中国のワイン産業は多様であり、地域ごとの気候や風土に応じたブドウ品種が栽培されています。特に寧夏や山東省、新疆などが重要なワイン生産地域であり、赤ワインではカベルネ・ソーヴィニヨン、白ワインではシャルドネが主要な品種として栽培されています。中国特有の風味を持つ品種やワインスタイルも多く、国際的にも評価が高まっています。今度中国ワインを見かけたら、ぜひ試してみてくださいね。

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